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企業のブランド発信は聴く媒体から「観せる」媒体へ。Spotify決算に見るエンゲージメントの新潮流

2025.12.04

smnl-spotify-video-podcast-corporate-branding Spotifyといえば音楽を聴くアプリというイメージをお持ちではないでしょうか。しかし、その認識は2025年の今、大きく覆されようとしています。

Spotify Technology S.A.が2025年11月に発表した第3四半期決算によると、同社の月間アクティブユーザー数は予想を上回り、ついに7億人の大台を突破しました(出典: https://s29.q4cdn.com/175625835/files/doc_financials/2025/q3/Q3-2025-Shareholder-Deck-FINAL.pdf)。

この記録的な成長を牽引しているのがビデオポッドキャストです。従来の音声による深い没入感に加え、視覚情報によるブランド理解の促進が可能になった今、Spotifyは企業のオウンドメディアとして新たなフェーズに入りました。本稿では、最新データをもとに、なぜZ世代はSpotifyで動画を観るのか、そして企業がこのプラットフォームをブランディングにどう活用すべきかを考察します。

1. Spotifyユーザー7億人超えの背景にある動画の力

音楽ストリーミングサービスとして認知されてきたSpotifyですが、その利用実態は劇的な変化を遂げています。最新の決算データから、その変貌ぶりを読み解きます。

1-1. 前年比11%増のユーザー成長を支えるビデオコンテンツ

2025年第3四半期、Spotifyの月間アクティブユーザー数(MAU)は前年同期比11%増の7億1,300万人に達しました。この成長の裏側にあるのが、ビデオポッドキャストへの戦略的な注力です。

特筆すべきは、Spotify上で動画ポッドキャストを視聴するユーザー数が3億9,000万人を超え、前年比で54%もの驚異的な増加を記録している点です。これは、Spotifyの全ユーザーの半数以上が、すでに音声だけでなく動画コンテンツにも触れていることを意味します。企業がオウンドメディアを展開する際、Spotifyはもはや音声だけのニッチなプラットフォームではなく、巨大なリーチを持つ総合メディアプラットフォームとして捉える必要があります。

1-2. Z世代が支持する能動的な視聴体験の実態

特に注目すべきは、若年層の利用動向です。YouTubeやTikTokなどの動画プラットフォームに慣れ親しんだZ世代を中心とするユーザー層は、ポッドキャストを聴くものとしてだけでなく、観るものとして捉える傾向が強まっています。

米国でのデータによると、ポッドキャストリスナーの約3分の2が、音声のみよりも動画付きの番組を好むと回答しており、この傾向は若年層ほど顕著です。彼らは単に音楽をバックグラウンドで流すだけでなく、アプリ画面をアクティブにして、クリエイターや企業の配信するコンテンツを能動的に視聴しています。この行動変容は、企業がターゲットとする層に対して、よりリッチな情報を届けるチャンスが広がっていることを示唆しています。

2. 音声×動画がもたらすブランド・エンゲージメントの進化

音声コンテンツは以前から、リスナーとの親密な関係(エンゲージメント)を築くのに有効だとされてきました。ここに動画が加わることで、企業のブランディング効果はどう進化するのでしょうか。

2-1. ながら聴きから没入視聴へのシフトと滞在時間の増加

従来の音声ポッドキャストの強みは、通勤中や家事の最中に楽しめるながら聴きにありました。Spotifyの動画機能は、この利便性を損なうことなく、視聴スタイルを拡張しています。

データによると、動画ポッドキャストを消費するユーザーの70%以上が、画面をアクティブにして(フォアグラウンドで)視聴しています。これは、ユーザーがコンテンツに集中し、視覚と聴覚の両方で情報をインプットしている状態です。企業にとっては、音声だけでは伝えきれなかった商品の詳細や、話し手の表情、場の雰囲気などを視覚的に訴求できるため、ブランドへの理解度や滞在時間の向上が期待できます。

2-2. 視覚情報が補完する信頼性とパラソーシャル関係の構築

ブランディングにおいて重要なのが、顧客との信頼関係構築です。音声だけでもパーソナリティの人柄は伝わりますが、動画で顔が見えることは、その効果を数倍に高めます。

話し手の表情や身振り手振りといった非言語情報は、視聴者に対して親近感や信頼感を与え、心理的な結びつき(パラソーシャル関係)を強化します。企業の広報担当者や開発者が自ら語る番組であれば、その熱量や誠実さがダイレクトに伝わり、無機質な企業イメージを人間味のあるものへと変えることができるでしょう。実際のリテンション(継続率)データにおいても、クリエイターが動画を追加すると視聴者の維持率が向上することが確認されています。

2-3. YouTubeとSpotifyの役割分担とクロスユース戦略

動画といえばYouTubeが圧倒的なシェアを誇りますが、Spotifyには独自の強みがあります。それは、音声と動画のシームレスな切り替えです。

YouTubeでは、バックグラウンド再生(画面をオフにして音声だけ聴く機能)は有料プランに限られることが多いですが、Spotifyでは全ユーザーが利用可能です。ユーザーは自宅のWi-Fi環境では動画として楽しみ、外出時はスマホをポケットに入れて音声として続きを聴く、という行動をストレスなく行えます。

企業はこの特性を活かし、YouTubeでは認知獲得(リーチ)を、Spotifyでは深い関係構築(エンゲージメント)を狙うといった役割分担が可能です。あるいは、同じ動画コンテンツを両方のプラットフォームに配信し、ユーザーの利用シーンに合わせて選んでもらうクロスユース戦略が有効になります。

3. グローバル事例に学ぶ企業チャンネルの動画活用

では、実際に企業はどのようにSpotifyの動画機能を活用すべきでしょうか。具体的なアプローチを提案します。

3-1. インタビュー風景の映像化によるリッチコンテンツ化

最も着手しやすいのが、対談やインタビュー形式のポッドキャストの映像化です。これまで音声だけで配信していた社長対談や社員インタビューを、スタジオでカメラを回して収録し、そのままビデオポッドキャストとして配信します。

映像があることで、スライド資料を画面に表示しながら解説したり、実際の製品を手に取って紹介したりすることが可能になります。これにより、BtoB企業であれば専門的なソリューションの解説がより分かりやすくなり、BtoC企業であれば商品の魅力を視覚的にアピールできます。手間をかけすぎずとも、音声収録の現場を撮影するだけで、コンテンツの価値(リッチさ)を大きく向上させることができます。

3-2. 既存のYouTube動画資産をSpotifyへ展開するメリット

すでにYouTubeチャンネルを運用している企業にとっては、Spotifyへの展開は非常に低コストで済みます。既存のYouTube動画をSpotifyにもアップロードすることで、新たな接点を創出できるからです。

Spotifyのビデオポッドキャスト番組数は約50万に達していますが、YouTubeの膨大なコンテンツ量に比べればまだブルーオーシャン(競合の少ない市場)と言えます。YouTubeのアルゴリズムでは埋もれてしまいがちなニッチなテーマや長尺の対談動画も、Spotifyの学習意欲の高いビジネス層や長尺コンテンツを好むリスナーには届きやすい可能性があります。過去の動画資産を再利用し、マルチプラットフォームで露出を最大化することは、投資対効果(ROI)の観点からも理にかなった戦略です。

4. まとめ

2025年Q3の決算が示した通り、Spotifyは「聴く」プラットフォームから「聴くことも観ることもできる」総合プラットフォームへと進化を遂げました。ユーザー数7億人超、動画視聴者3億9,000万人という規模は、企業のマーケティング活動において無視できない存在です。

特にZ世代へのアプローチや、深いブランドエンゲージメントの構築において、Spotifyのビデオポッドキャストは強力な武器となります。音声のながら聴きの手軽さと、動画の没入感を兼ね備えたこの場所で、企業の想いやストーリーを発信してみてはいかがでしょうか。まずは既存の音声コンテンツの映像化や、YouTube動画の転載から、その一歩を踏み出すことをお勧めします。

参考情報

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曽志崎 寛人
PROPO.FM Producer
曽志崎寛人
歴史ポッドキャスト「ラジレキ〜ラジオ歴史小話」 ナビゲーター