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音楽の次へ:Spotifyの新戦略が示す、音声コンテンツによるブランディングの新たな可能性

2025.10.23

smnl-spotify-new-era-corporate-podcast 企業のマーケティングやブランディングにおいて、顧客との新しい接点を持つことは常に重要な課題です。テキストや動画コンテンツはすでに飽和状態に近づきつつある中「音声」というメディアが持つ可能性に気づいている担当者の方も多いのではないでしょうか。

2025年9月30日、音楽ストリーミングの巨人Spotifyは、創業者ダニエル・エク(Daniel Ek)のCEO退任と、共同CEO体制への移行という大きな経営体制の変更を発表しました(出典: https://newsroom.spotify.com/2025-09-30/spotify-announces-leadership-evolution)

このニュースは、単なるトップの交代劇ではありません。Spotifyが音楽配信サービスという枠を超え、ポッドキャストやオーディオブックを含む総合オーディオプラットフォームへと完全に舵を切ったことを象徴しています。

この戦略的転換は、企業が音声コンテンツを活用し、新たな顧客体験を創出するための大きなチャンスの到来を意味します。本記事では、Spotifyの新体制が目指す未来像を解説し、企業がコンテンツマーケティングやブランディングに音声、特にポッドキャストをどう活用できるのか具体的な戦略を提案します。

1. Spotifyが目指す「総合オーディオプラットフォーム」とは

今回の経営体制の変更は、Spotifyがもはや単なる音楽を聴く場所ではないことを明確に示しています。彼らが目指すのは、あらゆる音声コンテンツが集まりリスナーとクリエイターが繋がる巨大なエコシステムです。

1-1. CEO交代が示す、音楽配信からの進化

創業者であるダニエル・エク氏がCEOを退き、執行会長という立場で長期戦略に専念する一方、新たにビジネス担当とプロダクト・技術担当の2名が共同CEOに就任します。この体制は、現在のビジネス(音楽配信)の最適化未来のビジネス(音声プラットフォーム)の創造という2つの目標を同時に、かつ強力に推進していくという強い意志の表れです。

これまでSpotifyは音楽配信事業で圧倒的なユーザー数を獲得し成長してきました。一方で、AppleやAmazonといった巨大テック企業との競争が激化する中で、音楽だけでは持続的な成長が難しいという現実にも直面しています。 そこで同社が次なる成長の柱として位置づけているのが、ポッドキャストとオーディオブックなのです。

1-2. ポッドキャストとオーディオブックが持つ戦略的重要性

Spotifyは近年、ポッドキャストとオーディオブックの領域に巨額の投資を行ってきました。すでにプラットフォーム上には700万近いポッドキャスト番組と35万冊以上のオーディオブックが存在しています。 これは単なるコンテンツの追加ではありません。

  • ユーザーエンゲージメントの向上: 音楽以外のコンテンツが増えることで、ユーザーがアプリを利用する時間や場面が増え、プラットフォームへの愛着や利用の習慣化が進みます。
  • 新たな収益源の確保: サブスクリプションだけでなく、ポッドキャスト広告やオーディオブックの販売など、収益源の多様化につながります。
  • 競合との差別化: 音楽カタログだけでは差別化が難しい中、独自の音声コンテンツを充実させることで、他社にはない魅力を持つことができます。

この戦略的な多角化こそが、Spotifyを単なる音楽サービスからあらゆる音声体験を提供する総合オーディオプラットフォームへと進化させる原動力なのです。

2. プロダクトを率いる新共同CEO、グスタフ・セーデルストレム氏が描く未来

企業のコンテンツマーケティング担当者として注目すべきは、新共同CEOの一人、グスタフ・セーデルストレム氏の存在です。彼はプロダクトとテクノロジーの責任者として、長年Spotifyのユーザー体験を支えてきました。 彼が描く未来は、企業のブランディング活動に新たな可能性をもたらします。

2-1. テクノロジーでユーザー体験を革新するビジョン

セーデルストレム氏は、徹底したデータ活用とAI技術の導入によって、利便性はすべてに勝るという哲学を追求してきました。 彼が今後さらに強化していくであろう領域は、主に以下の2つです。

  • 高度なパーソナライゼーション: Spotifyの強みであるレコメンデーション技術をさらに進化させ、ユーザー一人ひとりに最適化された音声コンテンツを届ける。AI DJのような機能はその一例です。
  • 新たな発見(ディスカバリー)機能: 膨大なコンテンツの中から、ユーザーがまだ知らないであろう魅力的なポッドキャストやオーディオブックに出会える仕組みを強化する。

これにより、プラットフォーム全体の魅力が向上し、ユーザーがより多くのコンテンツに触れる機会が生まれます。

2-2. クリエイターエコシステム構築が企業にもたらすもの

セーデルストレム氏が目指すのは、単にコンテンツを配信するだけでなく、クリエイターが収益を得ながら活動しやすい環境、すなわちクリエイターエコシステムを構築することです。 これには、制作ツールの提供、収益化のサポート、データ分析機能の強化などが含まれます。

これは、企業にとって大きな意味を持ちます。なぜなら、企業自身もこのエコシステムの一員としてクリエイターの役割を担うことができるからです。自社でポッドキャスト番組を制作・配信することで、オウンドメディアとして顧客と直接的な関係を築くことが可能になります。Spotifyがクリエイター向けのツールを充実させればさせるほど、企業が音声マーケティングに参入するハードルは下がっていくでしょう。

3. なぜ今、音声コンテンツがブランディングに有効なのか

Spotifyの戦略転換は、音声コンテンツがマーケティングにおいて無視できない存在になったことの裏返しでもあります。では、なぜ今、音声がブランディングに有効なのでしょうか。

3-1. 「ながら時間」にリーチできる音声メディアの強み

現代人の生活において、スマートフォンの画面を見ている時間はすでに限界に達しています。しかし、通勤中、家事をしている時、運動中など「耳は空いている」時間はまだ多く残されています。

音声コンテンツは、このような「ながら時間」に情報を届けるのに非常に適したメディアです。視覚を奪わないため、ユーザーの生活に自然に溶け込み、ブランドからのメッセージを届けることができます。これは、常に画面の占有を奪い合う動画広告やバナー広告にはない、音声ならではの大きな強みです。

3-2. エンゲージメントを高めるコンテンツの特性

音声、特に人の声は、テキストや画像だけでは伝わらない温かみや親密さを伝える力を持っています。ポッドキャストのような対話形式のコンテンツは、リスナーにまるで会話に参加しているかのような感覚を与え、強いエンゲージメントを生み出します。

定期的にコンテンツを配信することで、リスナーとの間に信頼関係が構築され、ブランドへの愛着(ブランドロイヤリティ)を高める効果が期待できます。これは、一方的な情報発信になりがちな他のメディアでは得難い、音声コンテンツ特有の価値と言えるでしょう。

4. 企業がSpotifyで実践できるコンテンツマーケティング戦略

では、具体的に企業はSpotifyというプラットフォームをどう活用すればよいのでしょうか。ここでは2つの主要な戦略を提案します。

4-1. オウンドメディアとしてのポッドキャスト番組配信

最も直接的で効果的な方法が、自社でポッドキャスト番組を立ち上げ、オウンドメディアとして活用することです。

4-1-1. 専門知識を活かしたソートリーダーシップの確立

自社の持つ専門知識や業界の最新情報を発信する番組は、特定の分野における第一人者としての地位(ソートリーダーシップ)を確立する上で非常に有効です。例えば、BtoB企業であれば業界のトレンド解説や成功事例の紹介、コンサルティングファームであれば経営課題へのアドバイスなどが考えられます。リスナーに有益な情報を提供し続けることで、業界内での信頼と権威性を高めることができます。

4-1-2. 企業文化やストーリーを伝えるブランディング

製品やサービスの話だけでなく、社内の雰囲気や開発秘話、社員の想いなどを語るコンテンツも有効です。普段は見えにくい企業の人となりを伝えることで、視聴者に親近感を与え、ファンを育てることができます。採用活動においても、企業の魅力を伝える強力なツールとなり得ます。

4-2. 既存クリエイターとのタイアップによるリーチ拡大

自社での番組制作が難しい場合でも、既存の人気ポッドキャストクリエイターと協力する方法があります。これは、いわゆるインフルエンサーマーケティングの音声版です。

番組のスポンサーになったり、特定のコーナーで自社製品を取り上げてもらったりすることで、クリエイターが持つファン層に効率的にアプローチできます。クリエイターが持つ信頼性を活用することで、広告色が薄まり、自然な形でブランドや製品の魅力を伝えることが可能です。

5. まとめ

SpotifyのCEO交代と共同CEO体制への移行は、同社が音楽配信の枠を超え、音声コンテンツ全般を扱う総合プラットフォームへと進化していくという明確な意思表示です。この変化は、企業にとって音声を通じた新たなブランディングとコンテンツマーケティングの時代の幕開けを意味しています。

  • Spotifyの進化: 音楽だけでなくポッドキャストやオーディオブックを含む総合オーディオプラットフォームへ。
  • 音声の強み: ユーザーの「ながら時間」にリーチでき、親密な関係性を築くことで高いエンゲージメントが期待できる。
  • 企業の活用戦略: オウンドメディアとしてポッドキャストを配信し専門性を示したり、既存クリエイターとのタイアップでファン層にアプローチしたりすることが可能。

プラットフォームがクリエイターエコシステムの構築を進める今、企業が音声マーケティングに参入する絶好の機会が訪れています。テキストや動画に次ぐ第三のマーケティングチャネルとして、音声コンテンツの活用を検討してみてはいかがでしょうか。

参考情報

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曽志崎 寛人
PROPO.FM Producer
曽志崎寛人
歴史ポッドキャスト「ラジレキ〜ラジオ歴史小話」 ナビゲーター