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テクノロジーで社会課題を解決する。フォーミュラEとGoogle Cloudの協業に学ぶ、次世代のブランディング戦略

2025.09.26

smnl-formulae-googlecloud-ai-podcast 企業の社会貢献活動(CSR)やESG経営について「コストがかかる」「本業との関連性が薄い」と感じている担当者の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、もし社会課題への取り組みそのものが企業の技術力を証明し、ブランド価値を飛躍的に高める強力なエンジンになるとしたらどうでしょうか。

電気自動車の最高峰レース「フォーミュラE」とその公式クラウドパートナーであるGoogle Cloudは、視覚障がいを持つファンに向けて、AIを活用した音声レースレポートを共同開発することを発表しました。

この取り組みは、単なる慈善活動ではありません。テクノロジーを用いて社会が抱える具体的な課題を解決し、それを事業の根幹と結びつけることで、新しい企業価値を創造する最先端のブランディング戦略です。本記事では、この先進事例を深掘りし、これからの時代に求められる企業のあり方と、自社のビジネスに応用するためのヒントを探ります。

1. はじめに:企業の「社会における存在価値」が問われる時代

現代のビジネス環境において、企業は単に利益を追求するだけでなく、社会の一員としての責任を果たすことが強く求められています。その中心的な考え方が「ESG経営」です。

1-1. ESG経営と企業ブランディングの密接な関係

ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの要素を考慮した経営アプローチを指します。かつては企業の任意活動と見なされがちでしたが、今や投資家が企業の持続可能性を評価する上での重要な指標となっています。

企業のESGへの取り組みは、気候変動対策や人権への配慮といったリスク管理の側面だけでなく、新たな事業機会の創出や、企業ブランドの向上に直結します。特に、企業の姿勢や価値観に共感する顧客や従業員が増える中で、ESGは企業ブランディングと不可分な関係になっているのです。

1-2. なぜ「インクルーシビティ」が重要な経営課題なのか

ESGの中でも、特に「S(社会)」の文脈で重要度を増しているのがインクルーシビティ(包摂性)です。これは、年齢、性別、人種、障がいの有無などに関わらず、誰もが尊重され、参加できる機会が提供されている状態を指します。

インクルーシビティへの取り組みは、多様な顧客層へのアプローチを可能にし、市場を拡大するだけでなく、多様な視点を取り入れることで組織内のイノベーションを促進します。すべての人がアクセスしやすい製品やサービスを開発することは、倫理的な要請であると同時に、企業の競争力を高めるための重要な経営課題なのです。

2.【先進事例】フォーミュラEとGoogle Cloudが示す「機能としてのパートナーシップ」

今回発表されたフォーミュラEとGoogle Cloudの協業は、インクルーシビティを技術で実現し、企業ブランディングへと昇華させた画期的な事例です。

2-1. ロゴを貼るだけではない、事業の根幹に関わる協業の本質

従来のスポーツにおけるスポンサーシップは、車体やスタジアムにロゴを掲載する、といったブランド露出が中心でした。しかし、この両社の関係は一線を画します。Google CloudのAI技術は、フォーミュラEのファン体験を向上させるという、事業の根幹を成す機能そのものになっているのです。

これは、自社の技術やサービスをパートナーの事業に深く統合させ、共に新たな価値を創造する「機能としてのパートナーシップ」と呼べるモデルです。Google Cloudにとっては、自社の最先端AI技術の有効性を世界に示す絶好の機会となり、フォーミュラEにとってはファンエンゲージメントとインクルーシビティというブランド価値を具体的に向上させることができます。

2-2. 視覚障がい者向けAI音声レポートが生まれた背景と目的

スポーツ観戦の醍醐味は、アスリートの超絶技巧だけでなく、周囲の観客と一体となって熱狂や感動を分かち合う「共有体験」にあります。しかし、視覚障がいを持つファンにとって、歓声は聞こえても、なぜそれが起きたのか(例えば、決定的なオーバーテイクやクラッシュの瞬間など)をリアルタイムで把握することは困難でした。その結果、熱狂の輪から取り残されたような疎外感を抱くことがありました。

この課題を解決するために開発されたのが、AIオーディオレースレポートです。レースの生データ(ラップタイムや順位など)とライブ実況音声をGoogleのAIが解析し、レースの重要な瞬間をまとめたダイジェストを、臨場感あふれる音声コンテンツとして自動生成します。これにより、視覚障がいを持つファンは、歓声の理由を正確に理解し、他のファンと感動を共有できるようになるのです。

3. なぜこの取り組みが強力なブランドメッセージとなり得るのか

このプロジェクトが単なる技術デモンストレーションに終わらず、多くの人々の共感を呼ぶ強力なブランドメッセージとなり得るのは、3つの重要な要素があるからです。

3-1. テクノロジーによる具体的な社会課題解決の実証

この取り組みの最大の強みは「AIが社会を良くする」というビジョンを、具体的な形で示している点です。「インクルーシブな社会を目指す」という抽象的なスローガンを掲げるだけでなく、自社のコア技術であるAIを用いて「感動の共有からの疎外」という現実の課題を解決しています。この有言実行の姿勢が、企業のメッセージに説得力と信頼性をもたらします。

3-2. 英国王立視覚障がい者協会(RNIB)との連携がもたらす信頼性とオーセンティシティ

企業が社会課題に取り組む際、独りよがりな活動は偽善的と見なされるリスクを伴います。フォーミュラEとGoogle Cloudは、開発プロセスにおいて英国王立視覚障がい者協会(RNIB)と緊密に連携し、視覚障がいを持つ当事者の意見を取り入れる計画です。

このような当事者コミュニティとの協業は、取り組みが本当に必要とされているニーズに基づいていることを保証し、その活動にオーセンティシティ(本物であること、信頼性)を与えます。企業姿勢への共感を醸成する上で、極めて重要な要素です。

3-3. フォーミュラEの「革新性」とGoogleの「技術力」の相乗効果

サステナビリティと技術革新をDNAに持つフォーミュラEと、世界最高峰のAI技術を誇るGoogle Cloud。この両社が手を組むことで、それぞれのブランドイメージが相互に強化される相乗効果が生まれています。

フォーミュラEは「未来のモータースポーツ」としての先進的なイメージを確固たるものにし、Googleは自社の技術が社会にポジティブな影響を与えることを具体的に示すことができます。この完璧なパートナーシップが、プロジェクトの価値をさらに高めているのです。

4. 自社の事業と社会課題を結びつけ、企業価値を高めるヒント

フォーミュラEとGoogle Cloudの事例は、他の企業にとっても多くの学びを与えてくれます。自社の企業価値を高めるために、明日から応用できる3つのヒントをご紹介します。

4-1. 自社のコア技術やサービスを社会貢献の視点から棚卸しする

まずは、自社が持つ技術、製品、サービスがどのような社会課題の解決に貢献できるかを多角的に検討してみましょう。例えば、物流企業が持つ配送ネットワークをフードロス問題の解決に活用したり、金融機関が持つデータを貧困層向けのマイクロファイナンスに応用したりと、可能性は無数にあります。本業と社会貢献を切り離すのではなく、事業の延長線上に社会課題の解決を位置づけることが第一歩です。

4-2. NPOや当事者コミュニティとの協業による課題の具体化

社会課題を正確に理解し、本当に意味のある解決策を生み出すためには、その課題の専門家や当事者との対話が不可欠です。NPOや関連団体とパートナーシップを組むことで、現場のリアルなニーズを把握し、自社の取り組みが的外れになることを防げます。RNIBとの連携がプロジェクトの信頼性を高めたように、外部の知見を取り入れることは成功の鍵となります。

4-3. ハッカソンなど、ボトムアップのイノベーション文化を醸成する重要性

この画期的なプロジェクトが、実はGoogle Cloud主催のハッカソン(エンジニアらが集中的に共同作業でソフトウェア開発を行うイベント)でのアイデアから生まれたという事実は見逃せません。トップダウンの指示だけでなく、現場の従業員が自発的に社会課題への情熱やアイデアを発信できるような、ボトムアップのイノベーション文化を醸成することが、予期せぬ革新的な取り組みを生み出す土壌となります。

5. 社会貢献が企業成長のエンジンになる未来

テクノロジーを活用した社会課題解決は、企業のブランドイメージを向上させるだけでなく、事業成長そのものに直結する重要な要素となりつつあります。

5-1. Z世代・α世代に響くコミュニケーション戦略

企業の倫理観や社会への貢献度を重視するZ世代やα世代にとって、企業の姿勢は製品やサービスを選択する際の重要な判断基準です。フォーミュラEとGoogle Cloudのような真摯な取り組みは、彼らの共感を呼び、長期的なファンや顧客を育む強力なコミュニケーション戦略となり得ます。

5-2. 採用ブランディングへのポジティブな影響

「この会社で働くことに誇りが持てるか」という点は、優秀な人材を惹きつける上でますます重要になっています。自社の技術や事業を通じて社会に貢献しているという実感は、従業員のエンゲージメントを高めると同時に、企業のパーパス(存在意義)に共感する優秀な人材を引き寄せる磁石となります。インクルーシビティのような先進的な取り組みは、採用市場における大きな競争優位性となるでしょう。

6. まとめ

フォーミュラEとGoogle Cloudの協業は、企業の社会貢献が、もはやコストや義務ではなく、事業の中核に位置付けられるべき戦略的投資であることを明確に示しました。

自社の持つテクノロジーや強みを社会課題の解決のために活用し、当事者コミュニティと連携しながらその純粋性を担保する。そうした取り組みは、企業のブランド価値を向上させるだけでなく、新たな世代の顧客や従業員を惹きつけ、持続的な成長を牽引する力強いエンジンとなります。

この記事が、皆様の会社にとっての「社会における存在価値」とは何かを改めて見つめ直し、事業と社会貢献を結びつける新たな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

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曽志崎 寛人
PROPO.FM Producer
曽志崎寛人
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