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世界中の外食産業が、新型コロナウィルスの影響で悲鳴をあげています。そんな中、シアトルにある老舗高級レストラン「Canlis」は、ロックダウン直前にレストランを閉め、敷地内の駐車場でファストフードの屋台を開店。このニュースは、地元のシアトルみならず、世界中から注目されました。なぜこの時期に、大胆な業務転換を行ったのでしょうか。
今回は、 Acquired.fm Podcastで配信されていたエピソードから、シアトルで70年愛され続ける高級レストランの、驚きの業務転換ストーリーをご紹介しましょう。
パンデミックで打撃を受ける飲食業界
新型コロナウイルスの世界的な大流行は、アメリカの外食産業にも壊滅的な打撃を与えています。2020年3月時点で、既に3万軒以上のレストランが閉店し、300万人の従業員が職を失い、外食産業の売上は昨年から月間約250億ドル減少しました(全米レストラン協会調べ)。 中でも、高級レストランの売上の減少率は、昨対比90%以上と、外食産業の中でもっとも打撃を受けたと分析されています(金融サービスCowen調べ)。
今回話題のレストラン「Canlis」も例外ではありません。しかし、Canlisは現在も雇用を維持し、新たに従業員の雇用を検討するほど堅調に事業を続けています。
率先した行動力が注目を集める、高級レストラン「Canlis」
アメリカ西海岸の主要都市シアトル。この街で唯一、ドレスコードを持つレストラン「Canlis」は、1950年にピーター・キャンリスが創業して以来、家族経営を行う、地元に愛されるレストランです。こだわりの料理と絶妙なサービスは、国内外から高い評価を受けています。
2005年からは、3世代目のマークとブライアンのキャンリス兄弟が共同で経営。2人とも空軍で従軍した後、有名レストランでの修行を経てシアトルへ戻り、家業を継ぎました。実は初代・2代目のキャンリス氏も従軍経験があり、その経験はレストラン運営に影響を与えているそうです。
メニューの一新や、製造方法にまでこだわった食材探しなど、キャンリス兄弟の革新的な経営は「ローカルレガシーの革命」と言われ、現在ではアメリカで最高のレストランの1つとして称賛を集めています。
高級レストランの枠を超える、3つの新業態を連続出店
3月に入りシアトルでも、新型コロナウィルスの問題が深刻化し、レストラン業界の落ち込みがさらに加速。キャンリス兄弟はすぐに、経営陣と従業員を集め、業態転換を決定しました。
そして、ロックダウンが迫る3月16日、レストランを閉鎖し、今までのCanlisとはかけ離れた、3つの新業態をスタートさせたのです。
ドライブスルーバーガーとベーグルスタンド
初日にはハンバーガーのドライブスルーを、次の日には朝食用ベーグルスタンドを開店しました。1,000個用意したハンバーガーは瞬く間に売り切れ、500個のベーグルは90分で完売。 圧倒的な人気の理由は、Canlisのブランドの他に、価格設定にもありました。バーガーとポテトのセットが14$。創業当時からレストランのメニューに並ぶCanlisサラダは12$。
この価格設定に、高い収益性や高級レストランのプライドはまったく感じられません。 マーク・キャンリス氏は「重要なのは、雇用を維持すること」だと言い切り、従業員を適所に配置し、ハンバーガーやベーグルを売り続けました。
ファミリーミール配達
3日目には、家族向けの少し贅沢なディナーの配達サービスをスタートしました。コンセプトは、家庭で食事をすることです。
Canlisの従業員は、普段まかないとして「ママのミートローフ」や「特製エンチラーダ」など、得意な料理を披露していました。そのため、今こそ家族のための家庭料理を作る時だと従業員からの発案があり、ディナーの配達サービスにつながりました。
ウェイターからピアニストまで、レストランで働く様々な従業員が配達を担当し、家から出られない顧客のもとに、新鮮な果物や野菜を使ったグルメな夕食を、毎晩200セット届けました。
そしてこの日、シアトルのロックダウンが始まりました。
「Canlis」が新業態を始めた理由
Canlisがロックダウン直前で3つの新業態を始めた理由。それは、従業員の雇用を守るためでした。
通常、5時間のディナー営業のためにキッチンを20時間稼働させるCanlisでは、通常営業ができない場合、115人の従業員がアイドリング状態に陥ってしまいます。そのために、115人分の新しい取り組みを考える必要がありました。
そこでキャンリス兄弟がたどり着いたのが、ポップアップスタンドの発想でした。計画には従業員全員の賛同が得られ、チーム一丸でポップアップスタンドの開店を目指しました。
14日間で新店舗開店を実現した、3つの背景
それにしても、なぜCanlisは、14日間というスピード感で3つも新業態をスタートできたのでしょう。そこには3つの理由がありました。
道なき道を決断するリーダーシップと、組織のシナジー
まずはじめに、Canlisは仲間に恵まれていました。
経営陣は、早い段階からコロナウィルスの脅威を従業員全員に共有。そしてすぐに、「何が起こるか分からないが、何もしないことは、過激なことをするのと同じくらい危険」だと気づき、雇用維持のために最善を尽くすべきという結論にたどり着きました。
従業員たちは経営チームの英断に共感しました。そしてすぐに、ドライブスルーやベーグルスタンドを開店する方法が考えられ、驚きの速さで開店したのです。
この取り組みには地域コミュニティも賛同。近隣店舗は、コロナウィルスの影響で余ったテイクアウトのパッケージや魚介類を寄付しました。
さらに、デリバリーに特化した予約システムについては、レストラン予約システム「Tock」本社に問い合わせ、約2日というスピードで構築が実現しました。
常に変化を歓迎する 「Canlis文化」
ふたつ目には、Canlisの企業文化が挙げられるでしょう。
Canlisには「変化=成長」と考える社内文化があり、以前から内部オペレーションを1年半程度で大きく変えることで、より良いサービスへの進化を模索していました。
突発的な配置転換にも慣れている従業員は、皆、変化はストレスではなく、自分たちに成長をもたらしてくれることを理解していました。
そのため、マーク氏が今回、夕食の席で従業員たちに業態転換を打診した時も、彼らから「自分も仲間に入れてほしい」と次々に手が挙がったのです。この事実が経営陣の背中を押し、たった14日間でのポップアップストア開店を成し遂げました。
新しい発想を具現化する習慣
3つ目は、近年のCanlisの事業展開にあります。
2019年夏、キャンリス兄弟はレストランの駐車場でプールパーティを開催。大きなホットタブにDJ、バー…、ドレスコードは水着のイベントですが、Canlisのシェフがピザを焼き、バーテンダーが腕を振るいました。
キャンリス兄弟は、新しい試み実行することは、質の高いホスピタリティを提供するためのインスピレーションを生み出すと考えています。そのため従業員を、プールパーティのような、いつもとは違う環境におき、成長を促していたのです。
この新しい発想を大切にする習慣は、コロナ禍で最大限に発揮されたのではないでしょうか。
「暗闇」に光を灯すCanlis へ、人々が寄せた共感
ホスピタリティに、スタイルや場所は関係ない
多くのレストランは「ファインダイニング」として食事を通した最高のおもてなしを提供することを目指していますが、マーク・キャンリス氏は「ファインダイニングは、食べ物を通して人々を最大限に思いやる形。もし、思いやりのスタイルが変わったら、それに合わせてシフトする必要ある」と話しています。
Canlisが「高級レストラン」という枠に捉われずに、新しい方法でファインダイニングを体現できたのは、マーク氏のこうした姿勢が背景にあると思われます。
地域のレストランとしての役割を模索する姿勢と存在意義
コロナ禍の今、業務改善を切望しながら、Canlisのような劇的な業務転換は無理だと考えるレストラン経営者は世界中にいるでしょう。彼らに対し、マーク氏は「レストラン経営者は、毎日の営業で、すでに危機を乗り越える根性と意志の強さを持っているじゃないか」と鼓舞しています。
危機に直面した時こそ、個々の可能性を見つめ直すべきであり、どんな小さなことでもそれぞれに役割がある。Canlisはその姿勢を表す好事例と言えるでしょう。
高級レストラン 「Canlis 」が教えてくれたこと
Canlisの業態転換劇は、コロナ禍で苦しむ飲食業界に「wihtコロナ時代」の新しいレストランの形を提示してくれました。そして、その挑戦は今も続いています。
連日大盛況だったポップアップストアは3月末に一部閉店し、現在はファミリーミールの配達と、新たに生鮮食品の店頭販売を通して、周辺農家のフードロス問題を解決するサービスを開始。その後、「Crab Shack」というバケツいっぱいの蟹を食べられるポップアップスタンドや、ドライブインシアターなど、新しいアイデアの新業態を次々と生み出しています。そして、現在もCanlisは雇用を維持しています。
あえて変化の先頭に立つCanlisからは、「今、何が必要とされているのか」を常に考える姿勢、経営層の圧倒的なリーダーシップ、そして従業員一人ひとりが自分にできることを模索することの大切さが伺えます。
企業の優れたエピソードを紹介する番組「Acquired.fm Podcast」とは
今回ご紹介したCanlisのエピソードは、「Acquired.fm 」というPodcast番組で公開され、大きな話題になりました。
「Acquired.fm 」は、2015年から続くPodcast番組で、多い時で200万ダウンロードを超える人気番組です。パーソナリティのBen Gilbertと David Rosenthalは、これまで多くの優れた企業のエピソードを紹介してきました。
コロナ渦で世界の常識が一変し、過去の偉業を語ることの意味が薄れつつある今。変わりゆく情勢の中で変化に「適応」している企業を取り上げる新シリーズ「Adapting Episode」を新たに始めました。
その初回エピソードとして取り上げたのが、Canlisの英断です。今後のエピソードの展開にも注目です。
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