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Apple MusicがTuneInと提携!Appleの戦略転換に学ぶ、次世代オーディオマーケティングの本質

2025.09.15

smnl-apple-music-tunein-audio-marketing スマートフォンの普及以降、私たちの情報収集やエンターテイメントの形は大きく変化しました。特に「音声」は、通勤中や家事をしながらといった「ながら時間」にも情報を届けられる媒体として、その価値を急速に高めています。このような状況の中、業界の巨人であるAppleがこれまでの戦略を大きく転換させる動きを見せました。

Appleは、世界最大のライブオーディオプラットフォームであるTuneInとの新たなパートナーシップを発表しました(出典:https://routenote.com/blog/apple-music-radio-stations-go-free-on-tunein/)これは、Apple Musicで提供されている高品質なラジオステーションが、初めて自社のプラットフォーム外で公式に利用可能になるという画期的なニュースです。

しかし、この出来事は単に「Appleのラジオが聴ける場所が増えた」というだけではありません。これは、巨大プラットフォームが顧客接点を求め、これまで固く閉ざしてきたエコシステムの壁を越え始めた、市場の構造変化を象徴する動きと捉えられます。

この記事では、Appleの戦略転換の背景を深く分析し、そこから見えてくるオーディオマーケティングの新たな可能性と、企業が音声コンテンツをビジネスに活用するための具体的な戦略を解説します。

1. Appleが仕掛けた戦略的提携の深層解説

今回の提携は、Appleの長期的な成長戦略における重要な一手と読み解くことができます。なぜAppleはこれまでこだわり続けてきた「壁」を開放する決断に至ったのでしょうか。

1-1. なぜ今?Appleが「ウォールドガーデン」を開放した経営判断

Appleは長年、iPhoneなどの魅力的なハードウェアを入り口に、ユーザーを自社のサービスやソフトウェアで囲い込む「ウォールドガーデン(壁に囲まれた庭)」戦略で成功を収めてきました。しかし、音楽ストリーミング市場が成熟期に入り、競争が激化する中でこの戦略にも限界が見え始めていました。

特にグローバル市場では、あらゆるデバイスで利用できるSpotifyが圧倒的なシェアを握っています。Apple Musicの成長は、自社のハードウェアユーザー数に依存するという制約に直面していたのです。利益率の高いサービス部門の成長を維持するためにはこの「壁」の外にいる潜在顧客、つまりAndroidユーザーや非Appleデバイスの利用者にアプローチする必要がありました。今回の提携は、市場環境の変化に対応し、新たな成長機会を模索するための必然的な経営判断だったと考えられます。

1-2. サービス部門の成長を支えるトップ・オブ・ファネル戦略

この提携は、マーケティングにおける「トップ・オブ・ファネル(認知拡大)」戦略そのものです。Appleは、TuneInがアクセス可能な200以上のデバイスプラットフォーム上で、自社の高品質なラジオコンテンツを、誰でも無料で利用できる「試供品」として提供します。

これにより、これまでApple Musicのブランドやその「ヒューマン・キュレーション(専門家による選曲)」という独自の価値に触れる機会のなかった膨大な数の潜在顧客にアプローチできます。質の高いラジオ体験を入り口に、最終的には有料のフルサービス(Apple Music)への加入を促します。これは、自社のエコシステムの外にいるユーザーを惹きつけるための、巧みなマーケティング戦略なのです。

2. マーケターが注目すべきTuneInの「ユビキタス(遍在性)」という価値

AppleがパートナーとしてTuneInを選んだ理由は、TuneInが持つ圧倒的なリーチ力、すなわち「ユビキタス(遍在性)」にあります。

2-1. 200以上のデバイスへのリーチがもたらす新たな顧客接点

TuneInは、全世界で月間7,500万人以上のアクティブユーザーを抱え、スマートスピーカーやゲーム機、テレビなど、200を超えるプラットフォームやコネクテッドデバイスに統合されています。

これはマーケターにとって、極めて重要な意味を持ちます。TuneInのユーザーの多くは、Appleがこれまで直接アプローチすることが難しかったAndroidデバイスの利用者や、Apple製品以外のスマートスピーカーを主に使っている層です。この提携は、そうした全く新しい顧客セグメントに対して、ブランドメッセージを届けるための新たな接点を生み出す可能性を秘めています。

2-2. 車載・スマートスピーカー環境の攻略がマーケティングの次なる戦場に

音声コンテンツの消費シーンは、スマートフォンに限りません。むしろ車での移動中や、スマートスピーカーで音楽を聴きながら料理をするといった、「アンビエント・コンピューティング(環境に溶け込んだコンピューティング)」の領域が、マーケティングの次なる主戦場となりつつあります。

TuneInは、数百もの自動車モデルに標準搭載されているほか、AmazonのAlexaやGoogleアシスタントといった主要な音声アシスタントともシームレスに連携しており、これらの領域で支配的な地位を築いています。Appleはこの提携によって、自社が手薄だった車載・スマートホーム環境における存在感を一気に高めることができます。企業にとってもこれらのシーンでいかにユーザーとの接点を作り、ブランドを想起させるかが今後のオーディオマーケティングの成否を分けます。

3. 音声市場の競争環境:主要プレイヤーの戦略とシェアから見る未来

今回の提携をより深く理解するために、現在の音楽ストリーミング市場の勢力図を見てみましょう。

3-1. SpotifyとAppleの二強対決に見るビジネスモデルの違い

世界の音楽ストリーミング市場は、長らくSpotifyがトップを走り、Apple Musicがそれを追う構図が続いています。両社の戦略には明確な違いがあります。

ストリーミングサービス 主な差別化要因/ビジネスモデル
Spotify 無料プランも提供する「フリーミアムモデル」。アルゴリズムによる強力なパーソナライゼーションが武器。
Apple Music 有料プランのみの「プレミアムモデル」。専門家が選曲する「ヒューマン・キュレーション」と自社エコシステムとの連携が強み。

Spotifyが膨大な無料ユーザーから得られるデータを活用し、アルゴリズムの精度を高めて有料会員獲得につなげているのに対し、Appleはコンテンツの質とブランド力で勝負してきました。今回のTuneInとの提携は、Appleがこれまでの戦略を維持しつつ、Spotifyの得意領域である「リーチの広さ」を補うための動きと分析できます。

3-2. 激化する市場で企業が取るべきポジショニング

Amazon MusicやYouTube Musicなども含め、音声市場の競争はますます激化しています。このような環境で企業がオーディオマーケティングを成功させるためには、各プラットフォームの特性を理解し、自社の立ち位置を明確にすることが不可欠です。

例えば、若年層に広くリーチしたいのであればSpotifyのフリーミアムユーザーは魅力的なターゲットですし、特定のジャンルに関心が高い層に深くアプローチしたいのであれば、Appleが誇る専門性の高いラジオコンテンツに広告を出す(※将来的な可能性)といった選択肢が考えられます。重要なのは、誰に、何を、どのプラットフォームで伝えたいのかを戦略的に設計することです。

4. 自社ビジネスへの応用:オーディオマーケティング成功の2つのポイント

では、企業はAppleの戦略から何を学び、自社のビジネスにどう活かせばよいのでしょうか。ここでは2つのポイントを提示します。

4-1. ターゲット層に合わせたプラットフォーム選定

まず基本となるのが、自社のターゲット顧客が日常的にどの音声プラットフォームを利用しているかを正確に把握することです。通勤中にポッドキャストを聴くビジネスパーソンを狙うのか、スマートスピーカーで音楽を聴くファミリー層を狙うのかによって、選ぶべきプラットフォームやアプローチは大きく異なります。今回の提携で選択肢に加わったTuneInのように、特定のデバイスや利用シーンに強いプラットフォームの活用も視野に入れるべきでしょう。

4-2. ブランド価値を高めるコンテンツ戦略

Appleのラジオ戦略の根幹には、一貫して「ヒューマン・キュレーション」という思想があります。これは、単に楽曲を再生するだけでなく、専門家の知識や情熱を通じて、音楽との新たな出会いや感動という付加価値を提供する試みです。

これからのオーディオマーケティングでも、単に広告を配信するだけでなく、自社ブランドの世界観や専門性を伝える質の高いオリジナルコンテンツ(例:ブランドポッドキャスト)の重要性が増していきます。ユーザーにとって価値のある情報やエンターテイメントを提供し、ブランドへの信頼や愛着を育む。そうした長期的な視点を持つことが、競争の激しい市場で選ばれるための鍵となります。

5. まとめ:ストリーミング戦争の新時代を勝ち抜くための視点

Apple MusicとTuneInの提携は、デジタルオーディオ市場が新たなフェーズに突入したことを示す象徴的な出来事です。このニュースから、私たちは2つの大きなトレンドを読み取ることができます。

  1. ウォールドガーデンの開放:プラットフォームの垣根を越え、あらゆる場所でユーザーとの接点を作ろうとする動き。
  2. アンビエント・コンピューティングへの戦場拡大:戦いの主戦場が、スマートフォンの中から、車やスマートホームへと広がっていること。

マーケターにとって、これは挑戦であると同時に大きなチャンスです。プラットフォームを横断した視点を持ち、それぞれの特性を理解した上で、リスナーの心に響く良質なコンテンツを届けることができるか。ストリーミング戦争の新時代を勝ち抜くための鍵は、そこにあるのです。

参考情報

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曽志崎 寛人
PROPO.FM Producer
曽志崎寛人
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