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【徹底解説】Adobe Podcast AIの使い方|Enhance SpeechとMic Checkで制作フローはどう変わる?

2025.12.10

smnl-enhance-speech-mic-check-guide ポッドキャストやナレーションの収録において、エアコンの駆動音や部屋の反響音といったノイズに悩まされた経験はないでしょうか?また、録音レベルが小さすぎたり、逆に音が割れてしまったりして、再収録を余儀なくされたことはありませんか?

これまでの常識では、こうした問題を解決するには高価な機材と、専門的な音声編集ソフト(DAW)を使いこなす技術が必要でした。しかし、Adobeが提供するAdobe Podcast AI(出典: https://podcast.adobe.com/)の登場により、そのハードルは劇的に下がりつつあります。

ブラウザ上で動作するこのツールは、AI技術を駆使して、劣悪な環境で録音された音声をスタジオ品質に変換し、テキストエディタを使うような感覚で音声編集を可能にします。本記事では、現役クリエイターが知っておくべきAdobe Podcast AIの主要機能から、2025年の最新アップデートである生成AI「Firefly」との連携、そして制作フローへの具体的な導入メリットまでを深掘りして解説します。

1. Adobe Podcast AIとは?クリエイターが注目すべき背景

1-1. 従来のDAW(音声編集ソフト)との決定的な違い

これまで、音声編集といえば波形(ウェーブフォーム)との戦いでした。Adobe AuditionやPro ToolsといったDAWは極めて高機能ですが、ノイズ除去一つをとっても、周波数スペクトルを解析し、EQ(イコライザー)やノイズゲートを微調整するといった専門知識が求められます。

一方、Adobe Podcast AIのアプローチは根本的に異なります。このツールは、AIが音声の内容を解析し、話者の声を再構築することで音質を改善します。従来のソフトがノイズを削る処理を行うのに対し、Adobe Podcast AIは理想的な音声を生成に近い形で復元するため、専門的なパラメータ調整を行うことなく、ワンクリックでプロ並みの音質を実現できるのです。

また、編集画面も波形ではなく文字起こしされたテキストがベースとなっています。WordやGoogleドキュメントで文章を推敲するのと同じ感覚で音声をカットしたり並べ替えたりできるため、エンジニアリングの知識がないクリエイターでも、ストーリーテリング(構成)に集中できる点が大きな特徴です。

1-2. ベータ版から正式リリースへ向けた進化の過程

このツールの起源は、2019年にAdobeの研究部門が発表した「Project Awesome Audio」に遡ります。その後、パンデミックによるリモート収録需要の急増を受け、2021年に「Project Shasta」としてベータ版が公開されました。当初から注目されていた音声強化機能に加え、ブラウザ上で完結する録音・編集スタジオとしての機能を拡充し、現在の「Adobe Podcast」へと進化を遂げました。

さらに特筆すべきは、2025年のアップデートで画像生成AIとして知られるAdobe Fireflyの技術が統合されたことです。これにより、単なる音声の修復だけでなく、テキストプロンプトからBGMや効果音を生成するといった創造的な機能までがワンストップで提供されるようになりました。これは、クリエイターにとって制作フローを根底から変える転換点と言えます。

2. 制作の質を底上げする主要機能の深掘り解説

2-1. 録音前の失敗を防ぐMic Checkの活用法

「収録後に確認したら、音が割れていて使い物にならなかった」というトラブルを未然に防ぐために強力なのが、Mic Check(マイクチェック)機能です。これは、収録前のプリプロダクション(準備段階)をAIがアシストしてくれる無料ツールです。

使い方はシンプルで、マイクに向かってテストフレーズを話すだけです。AIが以下の要素を即座に解析し、具体的な改善アドバイスを提示してくれます。

  • マイクとの距離:「マイクに近づきすぎです(低音が強調されすぎています)」や「遠すぎます(部屋の反響を拾っています)」といったフィードバックが得られます。
  • ゲイン(入力レベル):音が小さすぎる、あるいは音割れのリスクがある場合に警告します。
  • 背景ノイズ:エアコンやPCのファンノイズが許容範囲内かを判定します。
  • エコー:部屋の反響具合を診断します。

特筆すべきは、単にメーターを表示するだけでなく、「もっとマイクから離れてください」「入力レベルを下げてください」といった具体的な言葉で指示してくれる点です。専属エンジニアがいない個人クリエイターにとって、この機能は心強いスタジオアシスタントとなるでしょう。

2-2. 強力なノイズ除去Enhance Speechの実力と設定

Adobe Podcast AIの代名詞とも言えるのが、Enhance Speech(エンハンススピーチ)機能です。この機能は、スマートフォンやPCの内蔵マイクで録音された音声を、あたかも防音設備の整ったスタジオで高性能マイクを使って収録したかのような音質に変換します。

2-2-1. 強度調整による自然な環境音の残し方

初期バージョンのEnhance Speechは、効果が強力すぎるあまり、周囲の音を完全に消し去り、声質がやや機械的(ロボットボイス)になってしまうという課題がありました。

しかし、最新のバージョン(Enhance Speech v2)では、この点が大幅に改善されています。特にPremiumプランでは、適用の強度をスライダーで調整できるようになりました。これにより、ドキュメンタリーやロケ収録などで現場の臨場感(環境音)をあえて少し残したい場合に、ノイズ除去のレベルを50%〜70%程度に抑えるといった柔軟な運用が可能になります。自然な空気感を保ちつつ、声の明瞭度だけを向上させることができるため、コンテンツのクオリティが格段に上がります。

2-2-2. ビデオファイルへの対応と動画制作への応用

2025年のアップデートにより、Enhance Speechは音声ファイル(MP3/WAVなど)だけでなく、ビデオファイル(MP4など)の直接アップロードにも対応しました。

これは、YouTubeやTikTok向けの動画クリエイターにとって朗報です。動画から一度音声を分離して処理し、再度結合するといった手間が不要になり、動画ファイルをドラッグ&ドロップするだけで音声部分が最適化されます。処理後のデータは音声のみ、または音声が置き換わった動画ファイルとしてダウンロードできるため、動画編集ソフトへの取り込みもスムーズです。

2-3. テキストベースでカット編集ができるStudio機能

Adobe Podcast Studioは、ブラウザ上で動作する録音・編集ツールです。このツールの最大の特徴は、文字起こし(トランスクリプト)ベースの編集です。

音声を読み込むと、AIが自動的にテキスト化を行います。画面上のテキストエディタで不要な文章を選択して削除すると、対応する音声部分も自動的にカットされます。また、「えー」「あのー」といったフィラーワード(言い淀み)もAIが検出し、一括で削除することが可能です。

さらに、複数の話者がいる場合は話者識別(Speaker Diarization)機能が働き、誰が話しているかを自動でタグ付けしてくれます。波形編集では難しかった文脈を確認しながらの編集が直感的に行えるため、インタビューや対談コンテンツの編集時間が劇的に短縮されます。

3. 作業効率を最大化するエコシステム活用術

3-1. Adobe Expressとの連携によるサムネイル・動画作成

Adobe Podcastは単体のツールとしてだけでなく、デザインツールであるAdobe Expressとの強力な連携機能を持っています。

ポッドキャストの配信には、魅力的なカバーアート(サムネイル)や、SNSで宣伝するためのショート動画が欠かせません。Adobe Podcastで編集した音声データは、Adobe Expressへシームレスに連携でき、そこでテンプレートを使ってプロ品質のサムネイルを作成したり、音声波形(オーディオグラム)付きのプロモーション動画を生成することができます。

音声編集からビジュアル制作までを一つのエコシステム内で完結できるため、複数のツールを行き来するストレスから解放されます。

3-2. 生成AI「Firefly」によるBGM生成の可能性

最新の注目機能として、生成AIモデルFireflyを活用したGenerate Soundtrack(サウンドトラック生成)機能があります。

従来、BGMを入れる際は著作権フリーの素材サイトを探し回る必要がありましたが、この機能を使えば「明るい、朝のニュース番組風、軽快なビート」といったテキストプロンプトを入力するだけで、AIがオリジナルのBGMを生成してくれます。

さらに重要なのは、生成された楽曲が著作権的に安全(商用利用可能)であるという点です。Fireflyは権利関係がクリアなデータのみで学習されているため、YouTubeなどのプラットフォームで著作権侵害の警告を受けるリスクがありません。また、コンテンツの長さに合わせて曲の構成(イントロからエンディングまで)を自動調整してくれる機能もあり、選曲と編集の手間を大幅に削減します。

4. 無料プランとPremiumプランの選び方

Adobe Podcast AIは無料で使い始めることができますが、本格的な運用を考える場合はPremiumプランの検討が必要です。それぞれの違いを整理します。

4-1. ファイルサイズと利用時間の制限について

無料プラン(Free Plan)でも、Enhance SpeechやMic Checkといった基本機能は利用可能です。ただし、以下の制限があります。

  • Enhance Speech:1日あたり1時間まで。1ファイルあたり30分、500MBまで。
  • 一括処理:ファイルのバルク処理(複数同時アップロード)は不可。

趣味での利用や、短いクリップの編集であれば無料プランでも十分実用的です。

4-2. 本格的な運用ならPremiumがおすすめな理由

一方、Adobe Express Premiumプラン(月額9.99ドル〜 ※地域・プランにより異なる)に含まれる有料版では、制限が大幅に緩和されます。

  • Enhance Speech:1日あたり4時間まで。1ファイルあたり1GBまで対応。
  • 機能拡張:ノイズ除去の強度調整機能や、バルク処理が可能。
  • デザイン機能:Adobe Expressのプレミアムテンプレートや画像素材も使い放題。

長尺のインタビュー番組を制作する場合や、過去のアーカイブ音声をまとめて高音質化したい場合、あるいは環境音をコントロールして自然な仕上がりを追求したい場合は、Premiumプランへの加入がコストパフォーマンスの高い選択となるでしょう。

5. まとめ

Adobe Podcast AIは、これまで専門家の領域であった音質管理を民主化し、誰でも手軽にプロ品質の音声コンテンツを制作できる環境を提供しています。

  • Mic Checkで録音環境を最適化し、失敗を防ぐ。
  • Enhance Speechでノイズを除去し、聞きやすい音声に変換する。
  • StudioFireflyで、編集と演出を効率化する。

これらの機能を活用することで、クリエイターは技術的な課題に悩まされる時間を減らし、本来最も重要である「コンテンツの中身(企画やトーク)」に全力を注げるようになります。まずは無料版で、手持ちの録音データがどのように変化するか体験してみてはいかがでしょうか。

参考情報

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曽志崎 寛人
PROPO.FM Producer
曽志崎寛人
歴史ポッドキャスト「ラジレキ〜ラジオ歴史小話」 ナビゲーター