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【商用利用OK】歴史的偉人の声を作品に使える!ElevenLabs新マーケットプレイスの全貌とライセンスの仕組み

2025.12.23

smnl-ai-voice-commercial-use-elevenlabs 映像作品やゲーム、オーディオブックなどのクリエイティブ制作において、ナレーションやキャラクターの「声」は作品の質を左右する極めて重要な要素です。しかし、プロの声優を起用するにはコストやスケジュールの調整が必要であり、一方で従来のAI音声では感情表現や権利関係に課題を感じていたクリエイターも多いのではないでしょうか。

AI音声技術の先駆的企業であるElevenLabs(イレブンラボ)は、歴史上の象徴的な人物や著名俳優のAI音声を、正規の手続きを経てライセンス利用できる「Iconic Voice Marketplace(アイコニック・ボイス・マーケットプレイス)」の提供を開始しました(出典: https://elevenlabs.io/ja/iconic-marketplace )。

これまで、特定の人物の声を模倣するボイスクローニング技術は、権利関係が複雑で商用利用には高いハードルがありました。しかし、今回のプラットフォームは、権利者との直接的な契約を通じて、安心して作品に利用できる環境を整備した点で画期的です。

本記事では、この新しいマーケットプレイスの全貌と、クリエイターが自身の作品で伝説的な「声」を利用するための具体的な手順、コスト感、そして日本国内での展開を含めた権利処理のポイントについて徹底解説します。

1. クリエイター待望!「Iconic Voice Marketplace」開設の衝撃

生成AI技術が急速に進化する中、エンターテインメント業界における「声」の扱いは大きな転換期を迎えています。ElevenLabsが発表したIconic Voice Marketplaceは、単なる音声生成ツールの提供にとどまらず、デジタルコンテンツ制作における新たなエコシステム(生態系)の構築を目指すものです。

1.1 権利クリアランス済みの「声」が手に入る革新性

これまでインターネット上には、著名人の声を模倣したAIモデルやボイスチェンジャーが数多く存在しましたが、それらの多くは権利者の許可を得ておらず、商用利用は著作権やパブリシティ権(著名人の氏名・肖像などを商業的に利用する権利)の侵害リスクを伴うものでした。

Iconic Voice Marketplaceの最大の特徴は、権利クリアランス(利用許諾)が完了した安全な素材のみを取り扱っている点です。ElevenLabsは、故人の遺産管理団体(エステート)や存命の俳優本人と提携し、正規のライセンス契約に基づいてAI音声モデルを作成しています。

クリエイターにとっては、訴訟リスクを懸念することなく、高品質なナレーションやキャラクターボイスを作品に組み込めるようになります。これは、インディーゲームの開発者や小規模な映像制作チームにとって、作品の表現力を飛躍的に高める強力な武器となります。

1.2 ジュディ・ガーランドやアラン・チューリング等がラインナップ

ローンチ時点で提供されているラインナップには、映画、科学、文学など多岐にわたる分野の伝説的な人物が含まれています。

  • ジュディ・ガーランド(Judy Garland):映画『オズの魔法使い』のドロシー役で知られるハリウッド黄金期のスター。感情豊かで親しみやすい声質は、童話の読み聞かせやミュージカル関連のコンテンツに適しています。
  • ジェームズ・ディーン(James Dean):永遠の青春の象徴とされる俳優。反抗的でありながら憂いを帯びた独特のトーンは、若者向けのエッセイやファッションブランドのナレーションに深みを与えます。
  • アラン・チューリング(Alan Turing):コンピュータ科学の父。知的で論理的な語り口は、科学技術の解説動画や教育アプリのナレーターとして説得力を持ちます。
  • マイケル・ケイン(Sir Michael Caine):『ダークナイト』など数々の名作に出演する存命の名優。威厳と知性を兼ね備えたその声は、ドキュメンタリーや高級ブランドのプロモーションに最適です。

これらの声は、当時の録音データからノイズを除去し、最新の技術で再構築されています。単なる音真似ではなく、その人物が持つ本来の魅力やニュアンスを現代のデジタルコンテンツとして蘇らせています。

2. 自分の作品で使うための具体的な手順

実際にこのマーケットプレイスを利用し、伝説的な声を自分のプロジェクトに組み込むための流れを解説します。通常のAI音声生成とは異なり、権利者との合意形成プロセスが含まれる点が特徴です。

2.1 ライセンス申請から承認までのフロー(Request & Connect)

Iconic Voice Marketplaceの利用プロセスは、透明性と権利保護を重視して設計されています。

  1. 探索(Explore):ElevenLabsのプラットフォーム上で、カタログから希望する人物(アイコン)を選択します。各プロフィールには、声の特徴や適したジャンル、対応言語などが記載されています。
  2. リクエストと接続(Request & Connect):利用したい声が決まったら、プロジェクトの詳細を記入してライセンス申請を行います。ここには、作品の概要、配信媒体、ターゲット層、期間、予算感などを具体的に明記します。この申請は、ElevenLabsを介して権利保有者に直接届きます。
  3. 承認と合意(Approval & Agreement):権利者は申請内容を審査します。自身のブランドイメージを損なわないか、倫理的に問題がないかなどが判断基準となります。承認されると、両者の間で正式なライセンス契約が締結され、利用条件が確定します。
  4. 制作と提供(Create & Deliver):契約完了後、ElevenLabsの技術を使用してAI音声を生成します。生成された音声データは、商用利用が許可された正規素材としてダウンロード可能になります。

2.2 商用利用の範囲と契約時の注意点

ライセンス契約においては、利用範囲(スコープ)の明確化が極めて重要です。例えば、「YouTubeでの広告利用のみ」「ゲーム内キャラクターボイスとして全世界配信」など、用途を具体的に定める必要があります。

特に注意すべき点は以下の通りです。

  • 独占性の有無:その声を特定の期間、自社だけで独占的に利用したい場合は、より高額な契約が必要となる場合があります。
  • 改変の制限:生成された音声に対して、後から過度な加工や編集を加えることが制限される場合があります。
  • クレジット表記:作品のエンドロールや説明欄に、ElevenLabsおよび当該人物の権利元(例えば「Voice licensed by Estate of Judy Garland」など)の表記を求められることが一般的です。

2.3 想定されるコスト感とプロジェクト規模

費用体系は、プロジェクトの規模や用途に応じて変動する動的な価格設定が採用されていると考えられます。

一般的なサブスクリプション型のAI音声サービスとは異なり、Iconic Voice Marketplaceでは以下の要素がコストに影響します。

  • ライセンス料(Licensing Fee):利用権を得るための一時金。権利者との交渉により決定されます。
  • 従量課金:生成する音声の長さ(文字数や時間)に応じた料金。
  • ロイヤリティ:場合によっては、作品の収益に応じた配分(レベニューシェア)が求められる可能性もあります。

小規模なインディー制作であっても、権利者側がそのプロジェクトの芸術性や社会的意義を認めれば、リーズナブルな条件で許諾が得られる可能性はあります。逆に、大規模な商業広告やグローバルキャンペーンでは、それに見合った対価が必要となるでしょう。

3. 制作の質を変えるElevenLabsの技術力

権利面のクリアランスだけでなく、ElevenLabsが提供する技術的な品質の高さも、クリエイターがこのサービスを選ぶ大きな理由です。

3.1 テキストから「演技」を生み出す文脈理解能力

従来のテキスト読み上げ(TTS)技術は、情報を正確に伝えることには長けていましたが、感情表現や抑揚においては平坦になりがちでした。ElevenLabsの最新モデル(Eleven v3など)は、テキストの文脈(コンテキスト)を深く理解し、適切な感情を自動的に付与する能力を持っています。

例えば、「信じられない!」というセリフがあった場合、前後の文脈からそれが「驚き」なのか「失望」なのか、あるいは「皮肉」なのかを判断し、声色を変化させます。さらに、笑い声、ため息、囁き、言い淀みといった非言語的な要素も再現可能です。これにより、聴取者がAI音声であると気づかないレベルの自然な演技(パフォーマンス)を生成できます。

3.2 ゲームやインディー映画での活用アイデア

この技術は、様々なクリエイティブ分野で新しい表現を可能にします。

  • インディーゲームのNPC(ノンプレイヤーキャラクター):予算の制約で声優を起用できなかった膨大な数の村人や脇役に、個性豊かなAIボイスを割り当てることで、没入感を高めることができます。重要なキャラクターには著名人の声をライセンスして話題性を呼ぶことも可能です。
  • ドキュメンタリーや解説動画:歴史的な出来事を扱う作品で、当時の人物の日記や手紙を、その人物本人の「声」で朗読させる演出が可能になります。これにより、視聴者に対してより深い感情移入を促すことができます。
  • 教育コンテンツ:アラン・チューリングやリチャード・ファインマンのような偉人が、自らの理論を現代の学生に語りかけるような教材を作成できます。

4. 日本のクリエイターが知っておくべき権利と倫理

AI音声の利用には、技術的な利便性だけでなく、法的な権利や倫理的な配慮が不可欠です。特に日本市場においては、独自の商慣習や声優文化への理解が求められます。

4.1 「ディープフェイク」とは違う?正規ライセンスの重要性

「ディープフェイク」とは、AIを用いて本人の同意なく作成された偽の動画や音声を指し、社会的な問題となっています。一方、Iconic Voice Marketplaceで提供される音声は、権利者の明確な同意(コンセント)に基づいています。

クリエイターが自身の作品を守るためには、素材の出所(来歴)が明確であることが不可欠です。非公式なツールで作成した音声を使用した場合、後々権利侵害で訴えられたり、プラットフォームから作品を削除されたりするリスクがあります。正規ライセンスを利用することは、クリエイター自身と作品の安全性を確保するための投資といえます。

一方で、故人の声を蘇らせる「デジタル・ネクロマンシー(死者の復活)」については、遺族感情や倫理的な議論も存在します。ElevenLabsのプロセスでは、遺産管理団体がその利用目的を審査することで、故人の尊厳を損なうような利用を防ぐ仕組みが組み込まれています。

4.2 日本の声優業界との連携(81プロデュース事例)と今後の動向

ElevenLabsは日本市場を重要視しており、2025年4月に日本法人を設立しました。さらに同年12月には、日本の大手声優事務所である「81プロデュース」との業務提携を発表しています。

この提携は、日本の声優の声をElevenLabsの技術でAI化し、多言語(英語、中国語など)で発話させることを可能にするものです。これにより、日本の声優が外国語を話せなくても、自身の声質を保ったままグローバルな作品に出演できる「ハイブリッド声優」という新たな道が開かれました。

加えて、ElevenLabsは一般社団法人AILAS(AI音声の独立ラベリング協会)と連携し、AI音声に電子透かしを入れて真正性を証明する技術の導入も進めています。これは、無断生成AIに対抗し、声優の権利を守りながら収益を還元するエコシステムを構築しようとする動きです。

日本のクリエイターにとっても、今後はこうした正規の枠組みの中で、国内外の多様な「声」を活用できる機会が増えていくと考えられます。

5. まとめ

ElevenLabsのIconic Voice Marketplaceは、AI音声技術を「無法地帯」から「信頼できるビジネスインフラ」へと進化させる重要な試みです。

  • 権利クリアランス済み:歴史上の人物や著名人の声を、法的リスクなく商用利用できる。
  • 圧倒的な表現力:文脈を理解し、感情豊かな「演技」を生成する技術力。
  • 透明性の高いプロセス:権利者への直接申請と承認フローにより、ブランドと倫理を守る。

クリエイターにとって、このプラットフォームは単なる効率化ツールではありません。時間や空間、さらには生死の壁さえも超えて、最適な「声」を作品に迎え入れることができる、創造性の拡張ツールです。正規のライセンス手続きを踏むことで、権利者を尊重しつつ、これまでにない没入感のあるコンテンツを生み出すことが可能になります。

参考情報

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曽志崎 寛人
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曽志崎寛人
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