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再生数の鍵は「ジャンル」から「文脈」へ。Spotifyのアルゴリズム変革とクリエイターの生存戦略

2026.01.07

smnl-context-driven-spotify-algorithm 2025年12月11日、音楽ストリーミング業界は大きな転換点を迎えました。Spotifyが、ユーザー自身がAIに対して「どのような音楽を聴きたいか」を言葉で指示し、アルゴリズムを直接コントロールできる新機能「Prompted Playlists(プロンプト・プレイリスト)」のテスト開始を発表したのです(出典: https://newsroom.spotify.com

これまで、私たちは「あなたにおすすめ」として自動的に提示される楽曲を受動的に聴くことに慣れていました。しかし、Spotifyの共同社長であるGustav Söderström氏が「ユーザーがアルゴリズムを操縦(Steer)する」と表現したように、この新機能はプラットフォームとユーザーの関係性を根本から変えるものです。

音楽クリエイターやポッドキャスターにとって、この変化は単なる機能追加ではありません。楽曲がリスナーに発見されるためのルールが、類似性から文脈(コンテキスト)へとシフトすることを意味しています。本記事では、このアルゴリズムの大転換がクリエイターに与える影響と、これからの時代に生存するための戦略を深掘りします。

1. アルゴリズムの「受動」から「能動」への大転換

Spotifyの成功を支えてきたのは、間違いなく高度なレコメンデーション技術でした。しかし、その技術が成熟するにつれ、クリエイターとリスナー双方に新たな課題が生まれていました。

1-1. 従来の「協調フィルタリング」の限界とクリエイターへの弊害

2015年に登場した「Discover Weekly」に代表される従来のシステムは「協調フィルタリング」と呼ばれる技術を基盤としていました。これは「Aという曲を聴く人はBという曲も聴いている」という膨大なデータを分析し、ユーザーの好みを予測するものです。

このシステムは、ユーザーが能動的に曲を探す手間を省く「受動的聴取(Lean-back)」を促進しました。しかし、長期的には以下のような弊害も生じさせていました。

  • エコーチェンバー現象:過去の再生履歴に基づき似たような曲ばかりが提案され、リスナーが新しいジャンルやアーティストに出会う機会が減少しました。
  • スマートシャッフルへの不満:ユーザーが作成したプレイリストに、アルゴリズムが選んだ「おすすめ曲」が強制的に混入する機能変更に対し「自分のライブラリが汚染された」と感じるユーザーからの反発が強まりました。

クリエイターにとって、これは「既存のヒット曲や類似曲の枠組みに入らなければ、リスナーに届かない」という高い壁となっていました。

1-2. 新機能「Prompted Playlists」が変える音楽発見のルート

今回発表された「Prompted Playlists」は、生成AI(大規模言語モデル)を活用し、ユーザーが入力した自然言語のプロンプト(指示)を理解して選曲を行います。

例えば「90年代のグランジのような雰囲気で、でも雨の日に合う静かな曲」といった抽象的なニュアンスや「現在TikTokで流行しているバイラルヒット」といった外部情報を含んだリクエストが可能になります。さらに重要なのは、このプレイリストが一度きりの生成ではなく「毎日朝6時に更新」といった具合に動的に変化し続ける点です。

これは、リスナーが自分専用のラジオステーションを編成するようなものです。クリエイターにとっては、誰かの再生履歴に似ていることよりも、ユーザーが指定した特定のシチュエーションや感情にマッチしていることが、再生されるための新たな条件となります。

2. 「Discovery Mode」の課金型プッシュと何が違うのか

Spotifyはこれまでも「Discovery Mode」というアーティスト向けのプロモーション機能を提供してきました。しかし、今回の新機能はそれとは質が異なります。

2-1. 広告費ではなく「ユーザーの意図」が再生を生む仕組み

「Discovery Mode」は、アーティストやレーベルが収益の一部(ロイヤリティ)を還元する代わりに、アルゴリズムによる露出優先度を高める仕組みでした。これは一部で「現代版のペイオラ(放送局への金銭的賄賂)」と批判されることもあり、資金力のあるアーティストが有利になる側面がありました。

一方「Prompted Playlists」における選曲基準は、純粋にユーザーのプロンプト(意図)に対する適合度です。ユーザーが「勉強に集中できるインストゥルメンタル」と入力した際、AIはその文脈に最も適した楽曲を選びます。ここには広告費の多寡は介在しません。つまり、ニッチなジャンルや無名の新人であっても、特定のニーズに深く刺さる楽曲であれば、発見されるチャンスが対等に巡ってくるのです。

2-2. スマートシャッフルの「押し付け」から解放されたリスナー心理

従来の「スマートシャッフル」機能では、リスナーは「勝手に選ばれた曲」に対して「これは本当に自分に合っているのか? それとも宣伝なのか?」という疑念を抱くようになっていました。

しかし、新機能では「なぜこの曲が選ばれたのか」という説明が明示されます。ユーザーは自らの意思で「操縦」している感覚を持つため、提示された楽曲に対する受容性が高まります。これは、クリエイターにとっても、押し付けられた曲としてスキップされるリスクが減り、好意的に聴いてもらえる可能性が高まることを意味します。

3. 選ばれるクリエイターになるための「文脈(コンテキスト)」戦略

では、この新しい環境下でクリエイターはどう動くべきでしょうか。鍵となるのは文脈(コンテキスト)の攻略です。

3-1. ジャンルタグだけでは不十分?プロンプトに引っかかる楽曲の特徴

これまでのメタデータ(楽曲情報)設定では「ロック」「ポップ」「ジャズ」といったジャンル分けが主流でした。しかし、AIが言語を理解する今、それだけでは不十分です。

AIは「悲しい」「エネルギッシュ」といった感情や、「通勤中」「料理中」といった行動文脈を理解します。したがって、楽曲そのものが持つ「雰囲気」や「利用シーン」を明確に言語化できる強度が求められます。

日本の市場では、Mrs. GREEN APPLEのようなアーティストが支持されていますが、彼らの楽曲には明確な世界観やメッセージ性があります。このように、特定の感情やシーンを想起させる楽曲は、AIによる言語的な検索(プロンプト)にヒットしやすくなります。

3-2. リスナーの「生活シーン」に入り込むためのメタデータ活用

具体的なアクションとして、楽曲の配信登録時やプロモーションにおいて、シチュエーションを意識したキーワードを盛り込むことが有効です。

  • 解説文やプレスリリース:「夜のドライブに最適」「日曜の朝に聴きたい」といった具体的な利用シーンを記述する。
  • プレイリスト名:自身で作成するプレイリストのタイトルを、「〇〇(アーティスト名)のおすすめ」ではなく「集中したい時の作業用BGM by 〇〇」のように、用途がわかるものにする。

これにより、AIが楽曲を学習する際「この曲は『作業用』という文脈に関連性が高い」と認識しやすくなります。

3-3. SNSでのファンコミュニケーションが変わる

ファンへの呼びかけ方も変えていく必要があります。「新曲を聴いてください」だけでなく、この曲を聴くためのプロンプトを提案するのです。

例えば、X(旧Twitter)やInstagramで以下のように発信します。

  • 「もしSpotifyの新機能を使っているなら、『やる気が出ない月曜の朝にパワーをくれる曲』ってAIに頼んでみて。私の新曲が流れるかも!」
  • 「この曲は『雨の日の読書』にぴったりです。そんな気分の時にリクエストしてね」

ユーザーが入力するプロンプトは、そのままAIへの学習データとなります。ファンに具体的な言葉でリクエストしてもらうことで、あなたの楽曲と特定の文脈(キーワード)の結びつきを強固にすることができます。これは、いわば「AIに対するSEO(検索エンジン最適化)」のようなものです。

4. まとめ

Spotifyの「Prompted Playlists」導入は、アルゴリズムによる「支配」から、ユーザーによる「活用」への転換点です。これはクリエイターにとって、不透明なアルゴリズムに振り回される時代から、楽曲の持つ本来の「意味」や「文脈」で勝負できる時代への変化を意味します。

  • 受動から能動へ:リスナーは自らの意思で選曲をコントロールし始めます。
  • 属性から文脈へ:重要なのは「誰に似ているか」ではなく「どんなシーンに合うか」です。
  • 共感から提案へ:楽曲がどのようなシチュエーションで輝くのか、クリエイター自身が言語化し、提案していくことが求められます。

2026年に向けて、あなたの音楽がリスナーの生活の「どの瞬間」に寄り添うものなのか、改めて定義し直してみてください。その明確な「文脈」こそが、AI時代における最強のプロモーションとなるはずです。

参考情報

・Spotify Newsroom: “You’re in Control: Spotify Lets You Steer the Algorithm” (https://newsroom.spotify.com )

・Music Business Worldwide: “Spotify to let users steer the algorithm…” (https://www.musicbusinessworldwide.com/spotify-to-let-users-steer-the-algorithm-with-new-prompted-playlists-feature-in-beta/ )

・TechRadar: “Spotify just launched its most powerful playlist creator yet” (https://www.techradar.com/audio/audio-streaming/spotify-just-launched-its-most-powerful-playlist-creator-yet-here-are-3-ways-id-use-it )

・CryptoRank: “What Are Spotify AI Playlists and How Do They Work?” (https://cryptorank.io/news/feed/56182 )

・The Guardian: “Spotify’s Discovery Mode: The New Payola?” (https://www.theguardian.com/music/2024/jan/15/spotify-discovery-mode-payola-controversy )

・ITmedia NEWS: “Spotify、自然言語でプレイリストを作成できるAI採用「Prompted Playlist」” (https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2512/12/news123.html )

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曽志崎 寛人
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曽志崎寛人
歴史ポッドキャスト「ラジレキ〜ラジオ歴史小話」 ナビゲーター