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ポッドキャスト配信の常識が変わる?RSSフィードで動画と文字起こしを届ける「Podcasting 2.0」と標準化の最新動向

2025.11.26

smnl-podcast-standards-process-hls-video 自分のポッドキャストをもっと多くの人に届けたいSpotifyやYouTubeのように、動画や文字起こしを活用してリッチな体験を提供したい

そう考えているクリエイターの皆さんに、ポッドキャスト業界の裏側で起きている、非常に重要な変化についてお伝えします。2024年11月、ポッドキャストの技術標準を推進する団体「Podcast Standards Project(PSP)」から、新機能の採用プロセスに関する画期的な提案が発表されました。(出典: https://podstandards.org/blog/

一見すると技術的なニュースに見えますが、これは将来、あなたが個人で配信するポッドキャストでも、手軽に高画質な動画を配信したり、検索に強い文字起こしデータを自動で表示させたりできるようになるための、大きな一歩です。

本記事では、この標準化プロセスの提案がなぜ重要なのか、そして注目される新技術「Podcasting 2.0」や「HLSビデオ」が、今後の番組制作とリスナー獲得にどう影響するのかを解説します。

1. クリエイター必見:ポッドキャスト標準化の最新ニュースとは

ポッドキャストは、誰でも自由に配信できるオープンなメディアですが、その自由さゆえに、新しい機能をすべてのアプリで使えるようにするには長い時間がかかっていました。今回のニュースは、その状況を変えるためのものです。

1.1 Transistor.fmが提案した「新機能の採用プロセス」

今回の提案を行ったのは、ポッドキャストホスティングサービス大手「Transistor.fm」の共同設立者であり、PSPの中心人物であるJustin Jackson氏です。彼は、新しいポッドキャストの技術標準(機能)を採用するためのプロセスを公式化することを提案しました。

具体的には、新しい機能のアイデアが出された後、「議論」「ベータテスト」「投票」を経て、最終的に「標準:オプション(推奨)」や「標準:必須」として認定するという、明確なステップを設けるものです。

これまで、ポッドキャストの新機能は、開発者同士の話し合いや、各企業の独自の判断で実装されてきました。しかし、この提案は、業界全体で足並みを揃えて新機能を導入するための公式なルールを作ろうという試みです。

1.2 なぜ今「公式プロセス」が必要なのか?

なぜ今、わざわざ堅苦しいルールを作る必要があるのでしょうか? その背景には、SpotifyやYouTubeといった巨大プラットフォーム(ウォールド・ガーデン)の存在があります。

これらのプラットフォームは、自社の一存で新しい機能(例えば、ビデオ配信や収益化機能)を次々と開発し、ユーザーに提供できます。一方、オープンなRSSフィードを利用するポッドキャスト業界は、多くのホスティング会社と再生アプリがバラバラに活動しているため、新機能の導入に時間がかかり、機能面で後れを取りつつありました。

特に、後述するHLSビデオのような高度な技術を導入するには、配信側と再生アプリ側の双方が同時に対応する必要があります。これまでのような暗黙の了解に頼った進め方では限界が来ていたのです。業界全体が協力して迅速に進化するために、明確なプロセスが必要とされました。

2. 「Podcasting 2.0」とは?クリエイターが知るべき新機能タグ

この標準化の動きの中心にあるのが、「Podcasting 2.0」と呼ばれる技術革新です。これは、従来のRSSフィードに新しい「タグ(情報)」を追加することで、ポッドキャストでできることを拡張しようとするプロジェクトです。

クリエイターにとって特に恩恵が大きい、主要な機能を紹介します。

2.1 HLS動画対応:RSSフィードで高画質ビデオを配信する

現在、もっとも注目されているのがHLS(HTTP Live Streaming)による動画配信の標準化です。

2.1.1 従来の動画配信(MP4)との決定的な違い

実は、ポッドキャストでの動画配信自体は昔から可能でした。しかし、従来の方法は、巨大な動画ファイル(MP4など)をそのままRSSフィードに貼り付ける仕組みでした。これでは、リスナーがファイルをダウンロードするのに時間がかかり、スマートフォンの通信容量も圧迫してしまいます。結果として、あまり普及しませんでした。

2.1.2 リスナー体験の向上(アダプティブ・ストリーミング)

これに対し、HLSはYouTubeやNetflixなどで使われているのと同じ、ストリーミング配信の技術です。

HLSの最大の特徴は、通信速度に合わせて画質を自動調整する(アダプティブ・ビットレート)ことです。通信環境が良い場所では高画質で、悪い場所では画質を落としてスムーズに再生します。

Podcasting 2.0でこの技術が標準化されれば、クリエイターはYouTubeに頼らなくても、自身のRSSフィードを通じて、リスナーに快適な動画視聴体験を提供できるようになります。これは、音声だけでなく映像でもファンを獲得したいクリエイターにとって強力な武器となります。

2.2 文字起こし(Transcript)タグ:SEOとアクセシビリティの切り札

次に重要なのが文字起こし(Transcript)タグです。これは、エピソードの音声データをテキスト化し、そのファイルへのリンクをRSSフィードに埋め込む機能です。

この機能が普及すれば、ポッドキャストアプリ上で自動的に字幕が表示されたり、テキスト検索でエピソードがヒットしやすくなったりします。

  • アクセシビリティの向上: 耳の不自由な方や、音声を出せない環境にいる人にも内容を届けられます。
  • SEO効果: 音声内容がテキストとして検索エンジンに認識されるため、新規リスナーの流入経路が増えます。

2.3 出演者(Person)タグ:ゲストの情報を正確に届ける

「Person」タグは、ホストやゲスト、スタッフなどの情報を構造化して記述するものです。

これまで、ゲストの名前はエピソードの概要欄にテキストで書くしかありませんでした。しかし、このタグを使えば、ゲストの名前、写真、SNSリンクなどを専用の形式で登録できます。アプリ側では「このゲストが出演している他の番組」をリストアップするといった機能が実現でき、クリエイター同士のコラボレーション効果を高めることが期待できます。

3. なぜあなたの配信サービスは新機能にすぐ対応できないのか

「そんなに便利な機能があるなら、なぜ私が使っている配信サービスやアプリはまだ対応していないの?」と疑問に思うかもしれません。そこには、オープンな業界ならではの構造的な課題があります。

3.1 Spotifyなど「壁に囲まれた庭」の素早い革新

Spotifyのようなプラットフォームは、配信システムから再生アプリまでを自社で一貫して管理しています。これをウォールド・ガーデン(壁に囲まれた庭)と呼びます。彼らは、「明日から動画に対応する」と決めれば、自社のシステムを更新するだけで即座に全ユーザーに機能を提供できます。

3.2 オープンなRSSが抱える「鶏と卵の問題」

一方、オープンなポッドキャスト業界は、配信ホスティング会社(Anchor, Libsyn, Transistorなど)と、再生アプリ(Apple Podcasts, Pocket Casts, Overcastなど)が別々の会社によって運営されています。

ここで発生するのが鶏と卵の問題です。

  • 配信会社: 「対応するアプリが少ないのに、コストをかけて新機能を実装しても意味がない」
  • アプリ開発者: 「新機能を使っている番組が少ないのに、コストをかけてアプリを対応させても意味がない」

互いに様子見をしてしまい、普及が進まないのです。

3.3 巨大な投資を必要とする「HLSビデオ」の実装課題

特にHLSビデオの実装は、技術的な難易度とコストが非常に高いものです。

配信会社は動画を適切な形式に変換・保存するサーバー設備が必要ですし、アプリ側は新しい動画プレーヤーを開発しなければなりません。これほどの投資を行うには、「この技術が確実に業界標準になる」という確信が必要です。これまでの緩やかな合意形成だけでは、この高いハードルを越えるのが難しかったのです。

4. 今回の「新プロセス」がクリエイターにもたらす恩恵

ここで、冒頭の「新機能の採用プロセス」の話に戻ります。PSPが提案したこの公式プロセスは、この膠着状態を打破するための仕組みです。

4.1 配信サービスとアプリの「協調」を促す仕組み

新しいプロセスでは、機能が標準(必須)として認定されるまでの段階が明確になります。

もしある機能がPSPによって「標準」と認定されれば、それは「主要なホスティング会社とアプリ開発者が、この機能の実装に合意した」ことを意味します。これにより、各社は安心して開発投資を行えるようになります。

クリエイターにとっては、自分が使っている配信サービスが最新機能に対応するスピードが上がり、使えるアプリの選択肢も増えるという恩恵があります。

4.2 Spotifyが「文字起こしタグ」を採用した事例の意味

この標準化の動きは、すでに成果を上げ始めています。実は、あのSpotifyがPodcasting 2.0の「文字起こしタグ」をサポートし始めたのです。

これは、オープンなRSSフィード側で設定された文字起こしデータをSpotifyが読み取って表示することを意味します。独自仕様で囲い込みを行っていた巨大プラットフォームが、オープンな標準技術を採用した画期的な事例です。

これは、PSPやPodcasting 2.0コミュニティが地道に標準化を進め、多くの番組がこのタグを採用したことで、Spotifyも無視できなくなった結果と言えます。業界が団結すれば、巨大プラットフォームをも動かせることを証明しました。

5. まとめ:ポッドキャストクリエイターが今から準備すべきこと

今回の標準化プロセスの公式化は、ポッドキャストが「音声だけのメディア」から、動画やテキストを含めた「総合的なメディア」へと進化するための重要な転換点です。

クリエイターの皆さんが、この波に乗り遅れないためにできることは以下の2点です。

5.1 自分の配信ホスティングサービスの動向を確認する

現在利用しているホスティングサービスが、Podcasting 2.0に対応しているか、あるいは対応する予定があるかを確認しましょう。PSPに参加している企業(Transistor, Buzzsprout, Libsynなど)は、積極的に新機能を取り入れています。もし、現在のサービスが新機能に消極的な場合、将来的に乗り換えを検討する必要が出てくるかもしれません。

5.2 HLSビデオや文字起こしの導入を検討する

まだ対応していない場合でも、将来的に動画配信や文字起こしを行うための準備を始めましょう。

  • 動画: 収録風景をビデオで撮っておく、YouTube用に編集した動画をポッドキャスト用にも活用する準備をする。
  • 文字起こし: 自動文字起こしツールなどを試し、テキストデータを用意するフローを検討する。

技術の進化により、個人クリエイターでもプロ並みの発信ができる時代がすぐそこまで来ています。標準化の動向をチェックし、新しい表現方法を積極的に取り入れていきましょう。

参考情報

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曽志崎 寛人
PROPO.FM Producer
曽志崎寛人
歴史ポッドキャスト「ラジレキ〜ラジオ歴史小話」 ナビゲーター